奈良県のフリーランス保育士という働き方は、自らの裁量でスケジュールを決め、専門性を直接的な収入に結びつけることができる、大きな魅力に満ちている。しかし、その輝かしい自由の裏側には、組織に守られる会社員とは全く異なる、「自己責任」という重い原則が存在する。この道を選ぶ前には、その光と影、メリットとデメリットを、冷静かつ客観的に比較検討することが不可欠である。まず、フリーランスとして働くことのメリットを改めて整理しよう。第一に、前述の通り「働き方の自由度」が挙げられる。勤務時間、勤務日数、休日を自分で決められるため、プライベートの予定を優先した、理想のワークライフバランスを追求することが可能だ。第二に、「収入アップの可能性」がある。時給を自分で設定できるため、経験やスキル、提供するサービスの質によっては、正職員の給与を時給換算した場合よりも、高い収入を得ることができる。特に、専門性の高いサービスを提供できる場合、その価値はさらに高まるだろう。第三に、「人間関係のストレスからの解放」だ。特定の職場に縛られないため、合わない上司や同僚との関係に悩むことがない。様々な現場を渡り歩くことで、常に新鮮な気持ちで仕事に取り組める。第四に、「多様な経験によるスキルアップ」が期待できる。多種多様な家庭環境や、異なる保育方針を持つ園で働く経験は、保育士としての視野を広げ、対応能力を飛躍的に向上させるだろう。しかし、これらのメリットは、これから挙げるデメリットと表裏一体の関係にある。フリーランスが直面する最も大きな課題は、「収入の不安定さ」である。仕事がなければ、収入はゼロになる。クライアントからの急なキャンセルは、そのまま収入の減少に直結する。毎月決まった額が振り込まれる安定収入は、そこにはない。第二に、「社会的保障の欠如」は、深刻に受け止めるべき問題だ。会社員であれば、会社が半分を負担してくれる健康保険や厚生年金は、全て自己負担の「国民健康健康保険」と「国民年金」に切り替わる。当然、有給休暇や産休・育休制度、賞与、そして退職金もない。病気や怪我で働けなくなった場合のリスクは、全て自分で背負わなければならない。第三に、「事業主としての事務的負担」が発生する。クライアントを探すための営業活動、契約書の作成、毎月の請求書発行、そして、一年間の収支を計算して国に申告する「確定申告」。これら全てを、保育業務と並行して、自分一人で行う必要がある。第四に、「職業的な孤立」と「信用の構築」という課題がある。困ったことや悩んだことがあっても、すぐに相談できる同僚はいない。専門的な知識をアップデートする機会も、自ら積極的に求めなければ得られない。そして何よりも、最初は「何者でもない」自分を、クライアントに信頼してもらうための地道な努力が必要となる。そのために、万が一の事故に備える「賠償責任保険」への加入は、フリーランス保育士にとって絶対的な必須事項だ。フリーランスとは、組織という船から降り、自らの小舟で大海原に漕ぎ出すようなものだ。自由という追い風を最大限に活かすことができる一方、嵐を乗り切るための備えと覚悟がなければ、あっという間に転覆してしまう。この天秤の両皿を冷静に見つめ、自分はどちらの生き方を望むのかを、深く自問自Tする必要がある。